小説:田舎でPT⑥五十肩?

田舎の理学療法士の日常を描いたフィクションです。

今日のお昼は栄養のバランスが素晴らしいのに低カロリーのリゾット!

いつも甘いものばかり食べてるから、たまにはバランスを考えた食事を摂らないとね。

こんなの食べるだけで、健康になった気持ちになりますよね。

美味しいランチも終わり午後のお仕事スタート!

最初の患者さんは、肩の痛みで理学療法の処方が出た安井さん、70代の主婦だ。

この辺りでは数少ない10階建てのマンションの4階にご主人と2人で暮らしている。

あまり高い建物のないこの地域ではかなり目立つ建物だから私でも知っている。

「70になって、今ごろ五十肩なんて・・・」

「20才若返っちゃいましたね」

なんてベタな返しをしつつ評価(理学療法では診断ではなく評価という用語を使用します)をしていると、肩関節の動きが痛みで制限されていて、どの方向に動かしてもそれなりに痛みがあるようだ。

熱感はそれほど感じないけど、炎症の影響があるのかぁ?

「じっとしていても、夜寝てても痛みはありますか?」

「動かしたときほどではないけどじっとしていてもジンジン痛い感じはするわねぇ」

安静時の痛みもあるから炎症は意外と激しいのかな?

炎症がある可能性が高いから無理に動かすことはやめておいて、関節モビライゼーションテクニックの中のトラクションという安全な治療法を試すことにした。

結果は

「あら、少し痛みが楽になったわ。リハビリって効果があるのね」

「良かったです。痛みがもう少し楽になるまで今の治療を続けていきましょう。」

翌々日

「この間、治療してもらった後は少し痛みが楽だったけど夜には痛みが戻ってしまって」

「そうですかぁ、繰り返し治療している間に効果の持続時間も長くなってくると思うのですが」

そうして治療を繰り返すこと3週間

「やっぱり治療してすぐは良いけど、夜には痛みが戻ってくるのよねぇ」

「そうですねぇ、さすが3週間で何も変化がないのは不思議ですよねぇ・・・」

特に帰ってから無理しいるわけでもないようだし、他に原因があるに違いない

肩の周辺を意識して触ってみると、片側の鎖骨上窩の腕神経叢の一部が過敏になっていた。

「そこを押されると肩まで響くわね、そこも悪いのかしら」

これはとても嫌な予感がするなぁ

「もう一度、担当医とも話し合ってみますね」

「変な肩のおばあさんでごめんなさいね。宜しくお願いします」

「そんなことはないんですよ。こちらがうまく治療できていないから・・・こちらこそ申し訳ないです。」

その日の夕方、診療が終わった担当医を呼び止めて

「すみません、またまたご相談です」

「またまた富井寺さんですね、今度はどなたのご相談でしょうか」

「今度は肩の痛みで通っておられる安井さんのご相談です。またまたで恐縮です」

「いや、いいんですよ。いつも助けられますから」

「いえいえ、こちらもいつもジュースおごってもらってますから」

「で、本題なんですが、この患者さんはX線検査で肺尖部に影がありましたよね」

「あぁ、あれは結核の既往があったから、結核の痕だと思うよ」

「実は、肺尖部のある鎖骨上窩で腕神経叢に過敏性があって、そこを押すことで肩の痛みを再現できるんですよね」

「えっ?」

「その影は別の病変の可能性はありませんか?パンコースト腫瘍とか」

「痛みが続くのもそれだと説明がつくんですよね」

「確かに可能性はあるかもしれないね、呼吸器専門の先生に紹介してみるね」

「宜しくお願いします」

その後、安井さんは呼吸器専門の病院へ紹介されそこでパンコースト腫瘍と診断され、医大へ転院して治療を受けているそうだ。

安井さんは

「早くに見つけてもらって良かったです、有難うございました。」

と言ってくださったけど・・・もっと早く気付くことも出来たはずなのになぁ

治療後に痛みの軽減があったからただの炎症の影響だと思ってしまった

一時的に治療に反応しても安心は出来ないんだなぁ

あーーーー、安井さんごめんなさい

今後はもっとしっかり臨床判断できるように頑張ります!

あと・・・

病変に気付かなかった担当医にも反省させてジュースもおごらせないと。

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