小説:田舎でPT⑬踵の痛みの原因は?

田舎の理学療法士の日常を描いたフィクションです。

さぁ、今日のお仕事もあと少しだぁ、今夜は博多のもつ鍋が待っている~

患者さんももういないし、ぼちぼち片付け始めようかな~

と言いつつ片づけを始めようとすると

「リハの新患でーす!」

と言いながらリハ室に入ってきたのは外来看護師の林さん

完全にニヤニヤしてるよね

帰る準備してたのに帰れなくなった私を見て完全に笑ってるよね

そう思いつつ返事を返すわたし

「はい、喜んで―!」

ニタついた看護師と一緒に入ってきたのはがっしりした体型の中年の男性、斎藤さんだ。

「リハビリ担当の富井寺です、処方箋には足底腱膜炎で踵に痛みがあるとありますがどのあたりに痛みがありますか?」

「立ったり、歩いたりしていると左の踵が痛くなるんです。最近は歩き始めから痛くなってきました」

「最近ひどくなってきてるんですね、痛み出したのはいつごろからですか?」

「2カ月前くらいからです」

「2カ月前くらいに何か怪我とか生活に変化はありましたか?」

「2カ月前に仕事の部署が変わって安全靴を履いて工場内を見回ることが多くなりました」

「なるほど、硬い安全靴で歩くのは負担になりそうですねぇ」

そういいながら患者さんの背中側に回り

「少し立っている姿勢を検査させてくださいね」

「はい、こんな感じで立っておけば良いですか?」

「はい、この姿勢でお願いします」

「左の後方に体重がかかってますねぇ、こうやって右にかけると嫌な感じがしますか?」

私は斎藤さんの骨盤に触れて体重のかかり方を評価して、右へ骨盤を移動させることで右下肢の体重を支える機能も確認してみた。

「はい、左に体重がかかると踵に痛みがありますが安定感はあるような感じです。腰を右の方へ移動させられるとうまく体重を支えられないような感じがします」

「右足は怪我とかしたことはないですか?」

「そういえば2年ほど前に地域のミニバレーボールの練習に参加した時にひどい捻挫をしたことがあります、たしか治るのに2カ月くらいかかったような」

「ミニバレーは確かに怪我される方が多いですよね」

「では足の検査をしたいのでこちらの治療台に腰かけていただけますか?」

「はい」

「では、先に捻挫したことのある右足を検査しますね」

足関節を動かしてみると内反させたときに靭帯の緊張を感じなかった。

「こちらは捻挫した時に靭帯がゆるんでしまったようですね、だから体重をうまく支えられなかったんだと思います」

「そうなんですねぇ、2年も前の怪我がいまだに影響してるんですね」

「体は自然と弱い部分をかばおうとしますからねぇ」

「では、左足を検査させてくださいね」

「痛いのはこのあたりですか?」

「そうです、その足の裏の踵のところです」

この痛みは足底腱膜炎ではないようなぁ・・・

「では、こうすると痛みはどうなりますか?」

私は足底腱膜によりストレスがかかるよう足の指を伸展させたままでさっきの踵の部分を押してみた

「さっきと変わりありません」

「ではこれではどうですか?」

次に足底腱膜がゆるむように足の指を曲げこんだ状態にして踵の痛い部分を押してみた

「やっぱり痛みは変わりませんねぇ」

足底腱膜を引っ張っても弛めても痛みに変化がないということは痛みの原因は足底腱膜じゃないかも

「ではこれではどうですか?」

「あ、痛くありません」

私は踵の脂肪を集めてるように左手で踵を保持して、その状態で踵の痛みがある部分を押してみたのだ。

これで痛みが軽くなる場合に考えられるのはヒールパッド症候群だ。

かかとの骨である踵骨が直接床に触れないように衝撃を吸収してくれる厚めの脂肪が踵には存在する。

体重や衝撃のかかり過ぎや栄養状態などの影響で脂肪が小さくなるなどして、かかとの脂肪が傷ついて炎症を起こしたり薄くなったりして衝撃を吸収できなくなり痛みを感じるようになる、こういった状態をヒールパッド症候群という。

「治療法はいくつかありますが、とりあえずテーピングを試してみましょうか」

私は踵の脂肪を集めるようにテーピングを実施した。

「ではこれで立って体重をかけてみてください」

「あれ、痛くないです、立つだけで痛かったのに体重をかけても痛くないです」

「かかとや土踏まずに入れるパッドもあるんですが、テーピングだけでも大丈夫そうですね」

「たったこれだけのテーピングでこんなに効果があるんですねぇ!」

「巻き方も簡単なので、朝起きたときに巻いて、お風呂で剥がすようにして様子見ましょうか」

「はい、これなら自分でも簡単に巻けますね」

「恐らく3週間前後で良くなるとは思いますが、再発しないように右足のトレーニングも覚えていただきますね」

「そうですね、左足に頼らなくて良いように右足も鍛えないとですね」

「はい、では自主トレをやって今日は終わりにしましょう」

斎藤さんのリハビリを終えて、今度こそ今日のお仕事は終わりーーーと思いきや

「リハビリの新患さんでーす!」

またまたニヤニヤ看護師が入ってきた!

「はい、喜んで―・・・・・・」

「ウソ、ウソ、冗談、外来も終わったよ」

「・・・・・・・・・・・・・」

終わってうれしいけど、なんだこの複雑な感情は

ニヤニヤ看護師の手のひらの上でもてあそばれた感じ

もうこうなったら

「冗談のお詫びにジュースおごって」

「ジュース、好きだよねぇ」

「好きですねぇ、じゃあ、一緒に自販機まで行きましょうか、ね」

そうだ、ヒールパッド症候群を足底腱膜炎でまわしてきた医者にもおごらせないと

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