小説:田舎でPT⑭高齢者の足のむくみ

田舎の理学療法士の日常を描いたフィクションです。

今日はバイト先の特別養護老人ホームに来ています。

週に一度、13時~16時まで3時間、入所されている利用者さんへ理学療法を実施してるんです。

具体的には担当の看護師さんや介護士さんから利用者さんの状態を聞いて、理学療法で対応できそうな件については手技を実施したり、スタッフさんへアドバイスをしたりするといった感じ。

今回、最初のご相談は寝たきりの田畑さんという利用者さんの足のむくみへの対応について

「最近、東病院から直接ここへ入所された方で、両足のむくみがひどくて」

「確かに両足ともむくんでますねぇ」

両膝~足先までが特にむくんでいるなぁ

喘鳴もあるし、たまに咳き込みもある

「東病院ではむくみの原因は何と言われてましたか?」

「心不全で利尿剤が処方されてます。あとは膝下にクッションを入れて足を高くしておくように申し送りがありました」

「そうですかぁ」

喘鳴やせき込みは心不全で説明がつきそうだけど、他にむくみを悪化させている要因はないかなぁ

「入所時検診の結果を見せてもらえますか」

「東病院からの情報提供書と、これが入所時検診の結果です」

血液データをみてみると

「アルブミンが3.0で低めですね、食欲はどんな感じですか?」

「なんだかすぐにお腹いっぱいになるみたいで摂取量は少ないです。胃ろうの話も出てます」

「そうですかぁ」

「とりあえず、体がむくむ原因は心不全と低アルブミンの影響として」

「低アルブミンの原因は肝機能障害も考えられますが東病院では問題とされていなかったので、まずは食事量が少ないことが原因としましょう」

「食欲がないのは腹腔内がむくんでいて胃腸の働きが悪くなっている可能性がありますね」

「喘鳴とせき込みは胸腔内がむくんでいる影響が考えられます」

「そして胸腔内や腹腔内がむくんでる原因は足を高く上げていること」

「血管から染み出した水分が足に溜まっていたけど、足を高く上げていることで胸腔や腹腔内にも流れ込んできている可能性があります」

「なので当座の対策としては、20°程度で良いのでギャッジアップして体を起こして足は下げることで胸腔や腹腔の水分を足へ流しましょう」

私はそう話しながらベッドをギャッジアップしてひざ下のクッションを小さくしてポジショニングを整えていった。

「でもこれだと足のむくみがひどくなりませんか?」

「まずは優先順位を考えましょう。心臓や肺、胃腸の働きと足のむくみのどちらが重要か」

「なるほど、確かにそうですね」

「ただ、むくみっぱなしにするわけにはいかないので、低アルブミンに対しては栄養士さんと相談して高タンパクの補助食品を追加してもらいましょう」

「東病院でも入所時検診でも腎臓機能については問題ないとなってますしタンパク質の摂取量が少し増えるくらいなら大丈夫でしょうし」

残りは心不全によるむくみだなぁ

「極端な話、利尿剤は血管内の水分を減らす効果があるけど血管の外の水分には直接的には効果がないのですよね」

「なので、ガーゼ包帯を足に軽く巻いて圧迫することで少しずつ血管へ水分を戻して利尿剤の効果を発揮しやすくしていきましょう」

「5㎝幅くらいのガーゼ包帯を2本使っても良いですか?」

「はい、大丈夫です。持ってきますね」

今日担当の看護師さんが包帯を取りに医務室へ走っていって、バタバタという豪快な足音とともに戻ってきた。

「これで良いですか」

「はい、大丈夫です。私が右足に巻きますから、左をお願いできますか」

「はい」

「では、足先の方から軽めに巻いていきます。引っ張り過ぎたり締めすぎたりしないように気を付けてくださいね」

「はい、これくらいでいいんですか?」

「はい、ゆるく感じるかもしれませんがこれくらいで十分に効果は期待できますよ」

「そうなんですねぇ、ぜんぜん引っ張らずに巻き付けただけですね」

「はい、それでいいんです」

「ギャジアップして少し時間も経ったから呼吸も楽そうになってきましたね」

「そういえば、ゼーゼーしてたのが無くなりましたね!」

「これくらいのギャッジアップで良いみたいですね」

「足を高くしてたせいで逆に呼吸が苦しくなっていたんですねぇ」

「田畑さん、ごめんねぇ・・・」

「では包帯を巻いた状態にして様子を見ましょう」

田畑さんに包帯を巻き終わった後、他の利用者さんのところを回って30分後に再び田畑さんの所に戻ってきた。

「足の包帯をはずして皮膚の状態を確認しましょうか」

「足先にチアノーゼは出てないですね」

状態を確認しながら包帯をはずしていくと包帯の痕が皮膚に残っていて30分前よりも細くなっていた。

「すごーい!ほとんど締めてなかったのに細くなってる!」

「循環障害も皮膚の損傷もないし、効果もでてるのでこれくらいで良いと思います」

「明日から毎日、30分ほどずつ包帯を続けてほしいのですが大丈夫そうですか?」

「はい、必ず続けます!」

「締め過ぎないように気を付けてくださいね」

「分かりました、気を付けます!」

「また来週、一緒に状態をチェックしましょう」

「そうですね、来週までには今よりも細くなっているように頑張ります」

「食事の方も宜しくお願いします」

「腹腔内のむくみが改善すれば食欲も出てくるかもしれませんので」

「はい、補助食品の件と摂取量の変化に気を付けておきますね」

そういって、その後も他の利用者さんの所を回り今日のバイトは終了した。

「では、来週またきますね! お疲れさまでした」

「富井寺先生、お疲れさまでした」

「いや~、今日も頑張ったなぁ」

と、バイトの帰りにあるコンビニで少し高めのコーヒーを買って

自分へのご褒美とするのがいつものルーティン。

自分へのご褒美は大事だからねぇ。

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